2013年6月20日木曜日

弦楽器と気候  ヨーロッパは乾燥している?


一般的に、ヨーロッパの気候は、乾燥しており、楽器も鳴りやすいが、日本へ持って帰ると湿気が多いので鳴らなくなると言われる。昔習った地理でも、地中海性気候とか西岸海洋性気候との違いはあるが、どちらも年間降水量は1000mmに満たず、確かにヨーロッパは雨が少なかった記憶がある。

一方、私の住む北陸は、楽器の環境としては最悪なんだろうなと漠然と思っていた。
「弁当忘れても傘忘れるな」と言われるように、一年中湿度が大変高いのである。

ところが最近、「イタリアのクレモナは霧が出ることが多く湿度は高い」という一文を見つけた。そういえば、「モーツアルト」という映画があった(テレビ放送での日本語吹き替えが絶妙だった)が、その中のウィーンは雪が降っており、大変寒そうであった。雪が降るとすれば湿度は高いはずである。


結局、本当のところはどうなのであろう。
調べようとしたのだが、案外、都市ごとの月別の平均気温、降水量、湿度が記載されている資料がない。以下、あちこちからひっぱってきたものを載せておきます。



 (1) 湿度について
確かに、降水量で比べると、日本は雨が多い。私の住む北陸などは、毎月三桁代の雨が降る。しかし、楽器に影響を与えると考えられる湿度自体は、北陸もローマも大きな違いは無く、ローマは思ったより湿度が高い。夏の降水量がほとんどないのに、湿度は70%以上あるのは、地中海からの風の影響だろうか。
ウィーンは大陸性の気候の傾向があるので、冬以外は確かに湿度が低いが、10月から2月ごろは、ほとんど北陸と同じである。
東京の湿度は、1年を通してローマよりも低めで、特に冬の湿度の低さは際だっている

(2) 気温について
気温は、ウィーンは一年を通して冷涼、特に冬の寒さは厳い。
ローマは一年を通して温暖、東京はそれらに比べれば寒暑の差が大きく、さらに北陸は東京よりも気温の年較差が大きい。

これらを見ていると、確かに北陸は全体的に湿度が高いことは間違いないが、ローマとそんなに極端に違うわけでもない。
ウィーン、ローマ、東京、北陸A市と並べると、冬は、東京の乾燥が際立っており、後の3都市はよく似たものである。一方、夏は、ウィーンの乾燥が目立つが、後の3都市はそんなに変わりはない。

それならということで、べルリンとロンドンも見てみた。

ベルリンは、6月前後は湿度は低いが、他は結構高い。
ロンドンは、なんとほとんどの月の湿度が90%を超えている。さすが霧のロンドンである。しかし、ロンドンって夏でも涼しいというより寒いんですね。ようこんな国民がアフリカ(そういえば中央アフリカは避けていますが)とかシンガポールあたりを植民地にしたもんですね。

 
結局、結論は、
「日本は湿度が高く、ヨーロッパは乾燥している」とは、一概には言えないというものだった。
むしろ、調べた限りでは年間平均では、東京が一番乾燥しており、次にウィーン、そしてベルリン、ローマ、北陸A市が僅差で並び、ロンドンが一番湿気が高い。

日本の場合は、降水量が極端に多いことと、夏の気温が高いため、蒸し暑く過ごしにくく感じたり、カビなども発生しやすいため湿潤な気候ととらえられがちだったこと。ヨーロッパは、年間を通して降水量が少なく、夏の気温は低いので、全体的に過ごしやすく感じるので、ヨーロッパはからっと乾燥しているという伝説ができたのはではないだろうか。

実際、ロンドンなどは、もう少し気温が高ければ、国中カビだらけになるだろう。

ただ、湿度には飽和水蒸気量という要素がある。これを考えると、日本の夏、特に北陸は空気中の水蒸気の量が圧倒的に多くなるので、楽器の管理には注意は必要だと思う。ただ他の季節は、飽和水蒸気量という要素を考慮しても、ヨーロッパは乾燥しているとは言えないようである。

楽器商は、日本は湿度が高いためヨーロッパから楽器を持ってきた時には注意が必要で、なかには特別なチューニングを行ってお客様に提供していますなどと言う人もいるが、どうなんだろうね。雪がぽとぽと降っているウィーンから、からからに乾燥した東京に楽器をもってきた場合と、夏、ベルリンから北陸に楽器を移動した場合でも、同じ「チューニング」とやらをするのだろうか。


むしろ東京の冬は、楽器の割れに注意が必要であろう。また北陸の場合は、1年を通して湿度が高いうえに夏は高音になるので、楽器の剥がれやカビに注意が必要になる。

また洋の東西を問わず、現代社会で楽器に影響を与えるのは、地域性より、エアコンを使用していること(特に夏と冬ですが)による極端な温度と湿度の変化のほうが大きいであろう。

その他、温帯地方は結局、気温や湿度という点ではそんなに変わらないので、熱帯、冷帯、寒帯(ここで楽器を弾く人はいないかな)、乾燥帯の人たちに比べれば、楽器の管理は随分と楽なんだろうということも感じた。

私の楽器で言えば、生まれ故郷のクレモナからウィーンに移った時には、「全体的に寒いところだなあ、特に冬の寒さはどうだね。とんでもないところにきたなあ。まあ夏は涼しいけど乾燥するね」と思っただろうし、ウィーンから私の家に来た時は、「湿度は結構高いね、でもクレモナもまあよく似たものだったな。冬は寒いけどウィーンよりはまし。夏は蒸し暑いよね」という感じかな。



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