2013年2月15日金曜日

チェロの購入② 楽器の選び方 その曖昧模糊

   最初の楽器は、よくわからないまま予算の範囲内で、購入してしまうことが多い。しかし、2代目の楽器はほとんどの場合、一生つきあうことになるので慎重に選びたいところだが、 なまじ音色の善し悪しも少しわかるようになっているので、かえって出自の悪い楽器を選んでしまうこともある。


   楽器を選ぶ時は、まず「音色・音量」が気になるため、無意識のうちに重要度が、音色・音量→弾きやすさ→楽器の色や形→健康状態(キズや割れ、剥がれ、指板や駒、エンドピン等の状態)となってしまいがちである。そのため音色の良さに惚れ込んでしまって、時に、とんでもない楽器をつかまされてしまうこともある。健康状態等も総合的に判断して、楽器を選ぶようにしましょう。

(1) 新作がよいのか、古い楽器がよいのか
    基本的には新作を選ぶほうがよいと思います。
  新作のよい点は、製作者が確定しており、値段もそれなりに適正であることや、健康な楽器が多いことである。
 古い楽器は、特有の音がするため、手にすると心がひかれるが、破損が多く、購入後も不具合が出て手がかかる場合がある。チェロの修理は、何千円ですむことは稀で、たいてい何万、へたすると何十万とかかってしまうのは、経験した人もおられるでしょう。
    また価格は楽器屋が勝手につけるわけだから、この価格が適正なのかどうか何とも言いようがない。楽器に貼ってあるラベルは、まあ適当に貼ってあるだけと考えた方がよい。リスクが大きいのである。

どうしても古い楽器を購入したい場合は、
①信用できる店で(=信頼できる人に紹介してもらうのが一番良い) ※お店の選び方は「チェロの購入① 楽器店の選び方」を見てください。 
②楽器の状態をよく説明を受け、納得の上で
③不具合が出た場合にそなえ、なるべく近くに腕の良い楽器店があること(場合によっては何回も通うことになるので)

が、購入の目安になると思います。

古くて良い楽器は、店に出回る機会も少ないです。
基本的に古い楽器選びは、素人は手を出さない方がよい分野と考えましょう。



(2) 楽器の値段について
   どの程度の値段の楽器がよいかは、予算に合わせて人それぞれなので・・・・・。高ければそれなりに良い楽器が手にはいることは間違いありません。 

※以下の記述 は、私が楽器を探し回っていた1990年代の感覚で書いています。それでも、今と比べそれほど大きな値段の違いはないように感じますが、ただイタリアの楽 器は、かなり値が上がって(というより不自然に上がりすぎて)いるようです。あくまで参考にということで読んでください。また下の表は、当時、見て回った楽器の感想メモの一 部です。これも参考までに載せておきます。また最近の中国製の楽器については、この当時はまだ出回っていなかったので、触れていません。



   最初の楽器は、ケースと弓もあわせて購入するので、全部合わせて30万から50万までという人が多いと思います。2代目の楽器は、それよりは良い楽器ということになりますが、80万~100万前後になると、工場製の一番良いグレードの楽器や、半手工品というか職人さんの手が結構はいった楽器が手に入ります。
   工場製の規格品の同じグレードでも、楽器によって鳴りがかなり違いますので、よく弾き比べて選びましょう。その中で気に入るものがあれば、長く使えると思います。ただ、使っているうちに音色面で不満が出てくる時があるかもしれません。

   150万前後になってくると、製作者名の入った手工品が見えてきます。ただ値段と楽器の性能が正比例していくのは250万ぐらいまでで、それ以上は、値段に製作者のネームバリューなど、楽器の性能以外の付加価値分がついてくるようです。

  また高い買い物なので、妻帯者は奥さんの理解を事前に十分得ておくことはもちろんですね。

   交渉ごとが嫌でなかったらですが、楽器屋さんの言い値で買わないようにしましょう。 昔からの老舗とよばれるある楽器屋さんは、どの楽器も一言言えば(場合によっては最初から店員さんが言いますが)、二割引いてくれます。これは最初から、高めの値札を下げて、二割引くことにより、お客さんに「そんなにひいてくれるか」という感覚を生じさせ、それ以上値引き要求する気持ちをなくさせる、お店の戦略ですね。
    200万円の楽器を160万円でいいですよと言われると、得した気持ちになりますよね。


(3) 楽器の健康状態について
 (中古、新作を問わず外観をチェックしておきましょう)

①割れやへこみ、ひずみがないか
   新作で、割れやヘコミがあるのは論外です。
  中古でも10年程度の使用で、表板や裏板が割れているのは購入を避けましょう。
   ただ、中古で横板が割れたり、へこんでいる場合は見たことがあります。横板はとても薄いので、割れやすいんですね。直しをしっかりしてあれば、納得しても良いと思います。ただ割れてないなと思っても、横板は六つの部分でできていますが、その部分ごと交換されていることがある。その場合は、何か大きな衝撃がかかった可能性があるので、楽器の他の部分に影響が出ていないか注意が必要です。
  またF孔周辺も割れやすいところですが、そのため製作段階で前もって表板の裏部分で補強してある場合があります。F孔の丸い部分から指を入れて、裏に何か補強してあるのがわかる時は、補修なのか補強なのか聞いて確認してみるといいでしょう。

  ただ割れやひびは、うまく修理してあると、表面からは素人目にはほとんどわかりません。F孔から小さい鏡をつっこんで見るとよくわかるのですが、それもできかねるところですね。
   割れを修理する時は、たいてい楽器を開ける(=表板・裏板を外す。全部はずす場合と部分的にはがして修理する場合もあります。横板で小さい修理だと開けない時もあるようです)ので、つなぎの部分をよく見て、ニスを塗り直したような跡があったり、ペーパーナイフのようなものを差し込んで開けるので、傷がある場合は、開けた可能性があります。不審に思ったら「一度開けていますか」と聞いて、開けてあると言うことなら、その理由を聞いておくとよいでしょう。

楽器屋さんは、「どんな割れでも適切な修理がされていれば大丈夫」と言いますが、割れのある楽器は、性能や耐久性が劣ってくるのは、否定できません。割れのない楽器がベストです。100年くらいまでの楽器なら、割れのない楽器は結構あります。
ただ100年以上の楽器は、表板や横板が割れているのは結構見ます。これも、魂柱や駒の足付近に割れのある楽器は避けましょう。また古い楽器でも、裏板の割れ、特に魂柱付近に割れがあるものは購入不可です。


②裏板や表板を削ってないかどうか。
  中古の楽器の場合、音が出るように、楽器屋が表板や裏板を勝手に削る場合がある。このような楽器は、楽器屋が手に入れた時に「この楽器は、音が出ないなあ」と感じたからこういうことをするわけですから、購入は避けましょう。
   中を見て、新作でないのに、板の色が妙に白い場合は、まず確実に削っている。またよく見ると楽器の中に削りかすが残っている場合さえあります。
  そもそも、そこまで楽器屋が手を入れてくるようなところでは、購入しない方がいいです。

③指板のチェック(→薄すぎる指板があります)
  指板は消耗品でもあるので、交換してあってもいいのだが、時に新作であっても粗悪品を使っていることがある。必ず高音部を押さえて、きちんと押さえられるかチェックしておきましょう。指板が薄いため、たわんで高音部が押さえられない楽器を見たことがある。
  そのような楽器を客の前に出す楽器商も、それだけで避けた方がいいでしょう。

④エンドピンのチェック
  エンドピンの差し込む角度を確認しましょう。エンドピンを出して、チェロを横にしてみると、結構、斜めに差し込んであるものが多い。これくらいは、購入が決まったら調整を頼めばすむことだが、新作であっても、本来この楽器についていた調整済みのエンドピンをソケットごと取ってしまって、汎用品を差し込んである場合もある。(テールピースやペグも同様である。) 
  理由はわからないが、そうしておいて、後ほどお客からの希望で、部品及び調整代を稼ごうという考えがあるのかも知れません。
 またエンドピンがソケットから抜けないタイプのものがあるが、これは避けた方がよい。結構、エンドピンは音色に影響するので、後で自分で交換したくなるからです。

⑤表板のチェック
  楽器屋は、表板を見せて、
「木目のつまったよい材料を使っています」
「ハーゼのでているのはよく鳴る楽器です」
などと言って、良い楽器であることをアピールする時がある。

   確かに表板は、なるべく均等に目のそろったものが良いと言われるが、ある一定以上の楽器なら、それなりのものを使っているし、結構良い楽器でも、木目のそろっていない楽器も見たことがあり、素人には、それ以上のことはわかりません。

表板の変形の典型例です。
  ただ板の変形がないかはチェックができる。F孔の部分に変形はあらわれやすい。右の写真はよく見られる変形の例です。古い楽器には見られるものですが、10年程度の使用で、このように変形している楽器は避けたほうがよいと思います。 


 ⑥裏板のチェック
    大抵の裏板は、二枚を合わせてあります。この合わせ目のところを、十分チェックしましょう。ここに隙間が空いていると、その修理は結構、やっかいでお金もかかります。
  また、中古の場合、F孔からのぞいて見ると、裏板のつなぎの部分にパッチ(1㎝弱の正方形の板)がたくさんあててある場合がある。何らかの原因で、つなぎの部分に隙間が空いたので、修理した可能性がある。もう50年以上たっている楽器で丁寧に修理してあるなら問題はないと思うが、10年程度の楽器でそういう修理がある場合は、避けた方が良いように思う。若い楽器は、また空いてくる可能性があるからです。
    新作の場合は、裏板にパッチは当ててない場合が多いのだが、たまに新作でもいくつかのパッチが見られる時がある。これは製作者が作っている過程で、強度上のなんらかの問題を感じたためと考えられるので、これも経年変化でそこがまた変形してくる可能性があります。

 裏板は、原則、二枚で構成されているものだが、楽器商は一枚で構成されていると言って購入を勧める場合がある。確かに、あの大きさで一枚板というのは、丁寧な仕事をしている証拠にはなるかもしれないが、だからといって音が必ずしもよいとは限らない。一枚構成でも二枚構成でも、楽器の出来には関係ないです。
  ただ、たまに新作でもよく見ると一部継ぎ足して三枚というものを見たことがある。これは楽器の強度上望ましくないので、避けた方がよいでしょう。


(4) 音量・音色について
①大きな音の出る楽器に惑わされないようにしよう。
  まず楽器を手にして気になるのは、「この楽器は鳴るのか」という点でしょう。
   大きい音がでるということは、より豊かな表現ができるということであり、大きく鳴る楽器がよいことに間違いはない。だだ若い時には、とにかく大きい音が出る楽器に触れると「ああいい音だ」と思いがちだが、ただからっとした音で大きい音が出ている場合は、そのうち飽きてしまうので注意が必要です。
    ある楽器を弾いていて大きい音で鳴るのでいいなあと思っていたが、家に帰って冷静になると「ばか鳴り」という言葉が脳裏に浮かんできたことがある。単純な音色で、ただ大きい音で鳴っているような楽器もあるということです。

②音色は、自分が感動するものを選びましょう。
   音色は、何をよい音色とするかは個人で好みがわかれるところです。透明な感じのする音がよいと思う人もいれば、しっとりと湿気を含んだような音をよしとする場合もあるだろう。明るい音や、やや暗めの音など、ここらへんは個人の好みの問題でしょう。
   楽器を探している時にひいた、ダラ・コスタという製作者のA線の音はいい音でした。よく鳴りながらも、しっとりとした艶っぽい音で実に上品な音がしていました。

   当たり前のことしか言えませんが、音色は、自分でひいてみて、「いい音だなあ」と惚れ込むことのできる楽器に出会いたいものですね。店員さんが、いくら「これはいい音ですよ」と言っても、自分の好みでない音の楽器は、購入しない方がよい。そうかなあとと思って購入しても、結局は後で嫌になってくるからです。
  
③4弦ともよい音質と音量で鳴ってくれる楽器はなかなかありません。
   4弦ともバランスよく響いてくれると良いのだが、これがなかなか難しい。ダラ・コスタの楽器もよいのはA線で、G線はやや音が割れるような感じで、C線は響かなかった。ところが4弦とも均等に響かせようと製作すると、今度はA線の艶っぽさが損なわれる傾向がある。
  「チェロはどんな楽器でも低弦は響くから」というようなことを言う人もいるが、実は、低弦が良い響きで鳴る楽器は、素人が出せる金額では、なかなか見つかりません。
   この音量、音色が4弦ともに高いバランスで融合している楽器がよい楽器なのだが、普通の人の予算を考えると、どうしてもどこかで妥協が必要になってくるように思います。どこを妥協するかは、よく考えてということになります。

④新作で鳴らない楽器は、いくら弾きこんでも鳴りません。
   弾き込むことによって、楽器の音色や音量が変化することはありますが、基本、その楽器の性能を超えて変わることはありません。
なかには、いくら弾きこんでも、また年月がいくら経過しても、変化のない楽器やかえって悪い方に変化(鳴りが悪くなる 音色が堅くなる等)する楽器もあります。
   良い楽器は最初から良く鳴るものです。

「今はこの程度ですが、新作ですから弾きこむと、どんどんかわってきますよ」といって楽器をすすめる楽器商がいたら、「はい、そうですよねえ」と言って退散しましょう。あやふやな期待を前提に購入してはだめですよ。

⑤一度で決めないで、何回か日をおいて試奏してみましょう。
   楽器の音は、その日のこちら側の体調や精神状態によって、違って聞こえる場合が結構あります。また楽器店によっては、試奏の部屋がよく鳴るように作られていたり、弦が、音量の出る派手な音のするものが張ってあることもあるので、気に入った物があっても、その場で購入を決めないで、日をおいて冷静になって何回か弾いてみることが大切だと思います。
 

(5) 楽器店との確認事項
   いよいよ、欲しい楽器が定まったら、もう一度次のようなことを確認しておきましょう。

①何年か後に、楽器を手放す場合に、購入価格の何割で引き取ってくれるのかの確認。状況にもよるが八割程度で引き取ってくれるはず。

②楽器の不具合部分を確認し、楽器引き渡しの時に、直しておいてもらうよう確認しておきましょう。
・全体にビビリ音などがないかどうか。(表板等の一部がはがれていないかどうか)
・先に述べたエンドピンの取り付け角度
・ペグがきちんと止まるか
・駒が変形していないか(長く楽器店におかれていたためか、反っくり返っている場合がある)、きちんと楽器と接触しているか。
・魂柱が真っ直ぐ立っているかどうか。楽器との接触面にぴったりあっているか。(これも長く楽器店に置きっぱなしになり、楽器が変形したためか、魂柱が斜めになっていたり、魂柱自体が曲がってしまっているものを見たことがある。こんな楽器をよく平気で客に出すよなあと思いましたがね)
・弦高が高すぎて、弦を押さえにくくないか、反対に低すぎて、C線のF音などを強くひいた場合などに、弦が指板と接触しビビリ音がでないか等、また低いポジションは押さえやすくても、高いポジションが押さえにくい場合もある。

(弦高の微妙な調整は、職人さんによってこちらの意図が伝わりやすい人と伝わりにくい人がいる。職人さんは一通りの楽器を弾けるように訓練はされているようだが、やはり専門があり、チェロを自分でもひく職人さんに頼むと、上手に調整してくれるようである。頼むときに雑談の中で、楽器歴を聞き出して、ヴァイオリンが専門のようだったら、あまり多くは期待しない方がよい。)

・テールピースが付いているものでよいかどうか。
    四弦ともアジャスターのついていないテールピースがついているのを見たことがある。またA線だけアジャスターを後付けしてあるものも見たことがあるが、いずれにせよ後から交換したくなるので、これは最初に交換しておいてもらおう。

・張る弦の指定
   希望する弦があれば、それを張っておいてもらいましょう。何も言わなければ、現状のまま渡されます。
   ただ弦には楽器との相性があるので、前の楽器で良かった組み合わせが、今度の楽器に合うとは限りません。大抵、購入後に試行錯誤が始まるのですが、もし楽器屋さんと親しく話ができるようでしたら、そこで自分の好みを言って相談してもいいと思います。


③楽器が、今までのハードケースに入るかどうかの確認
 (チェロは手工品なので、案外、入らない時がある)


(6) その他
  チェロの購入の際に、弓も同時に進められることがある。
「これほどの楽器でしたら、是非、弓もふさわしいものをもたれたほうが・・・」などという言い方ですね。
   確かに、楽器と弓は相性があるので、今までの楽器で使っていた弓が新しい楽器とは合わない場合があるのは確かです。
   しかし、同時購入は避けた方がよいと思います。弓は弓で選び方が難しく、本当に選ぶなら時間をかける必要がある。まずは楽器をじっくり選び、一年ほど引き込んで楽器に慣れてから、楽器を持っていって弓を選んだほうがよいと思います。


  私たち素人に見極められることは限られているし、何か疑問に思って聞いても、相手は玄人、上手に答えられてしまうことも多いが、相手が気を悪くしない範囲で、遠慮せずいろいろと聞いて情報を得ることは大切です。傷や割れなどは、誠実な楽器店なら、聞けば答えてくれると思います。(誠実な楽器店でも、楽器のマイナスポイントはこちらから聞かないと、自分から説明はしてくれることはないと考えましょう)

 そのため「チェロの購入① 楽器店の選び方」にも書きましたが、楽器選びは、まず信頼できるお店を選ぶことが第一で、その上で、あわてる必要は無いのですから、じっくりと自分が納得できる楽器を選べると良いと思います。

   2代目の楽器は、たいてい一生の伴侶となる楽器なので、とにかく、あせらず慎重に選びましょう。

   ネットを見ても、チェロの選び方は、楽器商が書くあたりさわりのないことしか見あたらなかったので、少しでも何かの参考になればと思い書いてみました。

   長いまとまりのない文章を最後まで読んでいただきありがとうございました。ご自身と相性の合う楽器が必ずどこかで待っていると思います。幸福な出会いがありますよう祈っています。






ちなみに、私の楽器は次のところで購入しました。
 1代目の楽器  下倉楽器(大学時代から、よく行っていたお店なので)
 2代目の楽器(現在使用中) シレーナ(目黒駅前にある楽器店で、知っている人の紹介です) 


  

2 件のコメント:

  1. はじめまして。大変勉強になりました。子どもがはじめたものの信用を築けていないうちに講師に高額の中古チェロ購入をすすめられ、こちらのページにたどり着きました。下倉楽器さんは電話で問い合わせしたときとても親切でした。おかげさまで身の丈にあった新品をまずは購入できそうです。ありがとうございます。

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    1. 少しでもお役に立てたとしたら、大変うれしいです。お子様の成長楽しみですね。発表会の時は、親のほうがドキドキしますけどね😊。

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