日本政治の悲劇は、まともな野党が育たなかったことだと思っている。1980年代までは、自民党に変わり得る野党と言えば、社会党しか存在しなかった。社会党は、複雑な性格を持った政党だったが、常に左派の力が強く、革命路線こそ捨てたと言ってはいたが、社会主義を標榜することはやめなかった政党である。国民からすると資本主義でなければ社会主義による政治・経済という選択しかなかったこととなる。こういう国は珍しいのではないか。アメリカやイギリスは二大政党政治であるが、革新系であっても社会民主主義路線であって、結局は資本主義という国家体制内での選択である。
日本という国には、すでに戦前の段階から、共産主義系の影響と浸透が強かったことがわかるが、国民としては、いかに自民党に飽きが来たからといって、まさか社会党に政権を任すわけにも行かず、結局鬱々とした気分を持ちながらも、自民党を支持するしかなかったわけである。自民党政権が長期に渡った一つの理由である。
そのような国民の気分を上手に利用したのが小泉純一郎氏である。彼は「自民党をぶっ壊す」と言い、いわば疑似野党のような存在を国民に見せ、今まで鬱々としていた国民の票をかき集めることに成功した。本来は、こういう革新系の個人主義的、市場至上主義的、成果主義的な考えを持つ人たちこそが、自民党に対抗する野党として育たなければいけない存在だったのではないだろうか。まさに日本の悲劇は健全な野党が存在しなかったことと言えよう。
ところが、衆議院選挙で大勝した自民党は、小泉氏の掲げる改革の旗に引きずられ、自民党全体が改革路線の方に偏ってしまうことになる。その結果、本来自民党の核となっていなければいけない健全な保守勢力が、はじき出されることとなった。そのため、本当に自民党を支持していた支持層までもが自民党から離れがちになってしまう。日本の第2の悲劇は、健全な保守勢力までもが無くなってしまったことである。
結局、改革の波に疲れた国民は、自民党に嫌気がさし、本来の保守的な国民の層も現在の自民党を支持することに違和感を感じ、結果として自民党は政権を失うこととなる。その裏には、民主党という、一見よくわからないが、社会主義的なイデオロギー色の薄まった勢力の存在があったということも影響があろう。大丈夫とまでは思わないが、以前よりは政権を任せることに拒否感は薄くなっていたのである。
自民党は麻生政権が最後のカードだったと思う。今までの闇雲な改革の動きを見直すと共に、国民が一番嫌がっていた天下りに象徴される役人や公共事業の見直し、税金の無駄遣いに着手すべきであった。麻生さんは大変真面目に仕事をされたと思っているが、今一歩、小泉改革の全面的な見直しと行政改革、公共事業の見直し等にまでは踏み込めなかったし、それを全面的に支える党内の体制も無かった。麻生さんでうまくいかなければ、もう自民党に先は無いということは、私にでも見えていたことだが、自民党にそういう危機感はなく、唯一のカードとして麻生さんを支え一丸となって取り組む雰囲気は最後まで無かった。政権を失うべくして失ったのである。
自民党の状況は深刻だと思う。まず人材が決定的に不足している。少なくとも安倍内閣が4年、福田内閣で1年(福田さんは失礼ながら、あれ以上は持たなかったと思う)麻生内閣で4年は持ちこたえるべきだった。そうすれば9年間の間には次の人材が育ったであろう。谷垣新総裁は、どちらかというと自民党内でのリベラルな位置にいる。この位置で自民党を運営していくならば、本来自民党を支持していた人たちは、戻ろうにも戻れない。もっと保守よりの人が新総裁になるべきだったと思う。しかし、見渡すとそういう立ち位置で、年齢・人格共に適格という人が自民党内には見事にいないのである。
一方、現在、政権を担っているのは、旧自民党から旧社会党までの勢力を統合した寄せ集めの勢力である民主党である。前述したように一見、以前の社会党に比べると社会主義的な色彩が薄れ、その分、国民から見ると、政権を任せやすく見える存在ではある。しかし、基本的にはイデオロギー色の強い、本来政治を任せてはいけない人たちが、その中心にいる政党である。特定の政治的主張が通ればよしとする、視野の狭い人たちが日本の政治を動かすということで、大変不安であり、その不安はたぶん高い確率で現実となるだろうと思う。
自民党の再生と奮起を心から望むしだいであ る。
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以上の文章は、民主党が政権を取って間もないころに書いたものである。現在は、自民党が復権し、まさかの安倍第二次内閣の成立である。野党に下った民主党は与党での経験を生かし、より地に足の着いた野党に成長するかと思ったら(・・こう書いてはいるが、実は思ってはいなかった。正確に言えば願っていたといったほうがよいが)予想通り、崩壊、分裂のきざしがある。そのため、健全な野党という存在のない日本政治の状況が変わったわけではない。民主党政権の時は、健全な与党という存在がないという、笑えない状況だったわけで、いずれにせよ選択肢がないという悲劇的な状況は続いている。
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