2011年5月14日土曜日

チェロの音 弾き込むと音は変化するのか 

弦楽器の世界では、よく「楽器が弾きこまれる」という言葉が使われる。

「新作楽器はこれから弾きこまれると、どんどん音が変化するので、楽しみである」
「この楽器は十分弾きこまれており、特有の渋い音がする」、
なかには、「この楽器は一時間以上弾くと、見違えるように響き出す」という表現もある。

楽器屋さんの話は、販売のために創作した「伝説」という面が多々あるので注意が必要だが、「弾きこむことによって、楽器の音が変化する」ことは本当にあると思います。


もう40年以上前大学生の頃、下倉楽器で古いフランス製の楽器を試奏したこと事がある。 
正しい音程をおさえると、そのポイントで楽器がよく響く感じがあり、たぶん長い間、上手な人によって弾きこまれたのだろう。各弦とも高いポジションまでよく響き、自然に正しい音程で弾けてしまう感じがあり、楽器自体も小振りで、とても弾きやすい楽器だった。(確か価格が57万円ぐらいで、こういう古い楽器の値段が、バブル期を経ると、格段に値上がりしてしまったことを考えると、買っておけば良かったと思う)
これは、確かに弾きこむことによって変化した一例だと思う。


しかし楽器の音は様々な要因で変化します。

(1) 新作楽器の音色・音量が変化する要因
 まず、楽器の付属品(弦やエンドピン、駒や魂柱、弓や弓毛等)を換えれば、音は簡単に変化します。20年も同じ楽器を弾いていて、これらを全く交換していない人は稀でしょう。

また弾く部屋による残響音等の違い、季節やエアコン使用による湿度変化、歳月経過による木質の経年変化などでも、音は変わってしまいます。

その他、自分の体調や心境の変化、加齢などでも音は違って聞こえます。ストレスを感じている時などは、楽器の音が耳障りに聞こえるとはありませんか。

また燦めく照明の下、豪華な雰囲気のコンサート会場で聞くヴァイオリンの音色と、一般の家で開かれるミニホームコンサートでは、明らかに音色は違う。

ヴァイオリンの音色は、心理状態や周囲の物理的環境にも、大きく影響を受ける。

結局、経年変化やひきこみによる変化があったとしても、これらの変化もごちゃ混ぜにして、「弾き込みによる音の変化」と呼んでいるように感じます。


音が変わったとしても、「この音の変化」が「弾き込んだ」ことによるのか、ほかの要因かは、冷静な判断が大切だと思います。



また変化と一口に言いますが、その変化は多種多様です。


(2) 新作楽器の音の変化について
楽器を弾いていて「鳴るようになったなあ」という瞬間があるとうれしいものです。
ただ「楽器が鳴る」とはどういうことなのでしょう。
一般には「鳴る」=「音量」と考えてもいいでしょうが、音量は変化しなくても音色が堅くなり、通る音になると、楽器が「鳴るようになった」と感じる時もある。この場合楽器の音量自体が落ちていくと、一時的には鳴ったと感じた楽器が、最後には、か細い金属的な音だけが気になる楽器になってしまうでしょう。 
楽器の音は、「音量」 と「音色」の総合なんですね。


(3)まとめかな
「弾きこみことによって、楽器の音は変化するのか」という問いの答は
①変化する場合もあるが、変化しない場合もある
②その変化には、好ましい変化も好ましくない変化もある

   音の変化とは
音量(a 変化なし b より小さく c より大きく)
音色(a 変化なし b より堅く c より柔らかく d より澄んだ e より乾いた音に など音色の変化は多種多様でしょう)
 があり、変化の方向性は、それぞれ、様々な組み合わせがある。

③楽器のこの変化は、弾きこみによるものだという判別は難しい
 ということになる。



確かに新作楽器は、古い楽器に比べ、変化する可能性はある思いますが、音量・音質が必ず良い方向に変化すると断言はできません。柔らかくしっとりとした音だった楽器が、年月を経るに従って、乾いた感じの音質に変化したり、大きな音で鳴っていた楽器が、いくら頑張って引き込んでも、鳴らなくなっていく場合もあり、その逆もあるようです。

なかにはも何も変わらないという頑固な?楽器もあると思います。

高価な手工品の楽器であっても、将来、より良い方向に変化するかどうかは、はっきり言うと製作者や楽器店でも保証はできないはずです。反対に、工場制の楽器であっても、良い方向に変化することがないとは言えない。

また変化したとしても、楽器の基本性能以上に劇的に変化をすることはないので、新作で響かない楽器は、いくら弾きこんでも、やはり響かない。購入の時に、幻想は抱かないことが大切です。
良い楽器は、最初から良い音がするのです。


「この楽器は新作なので、今は鳴りにくいですが、そのうちに良い音に変わっていきます」と言う楽器商がいたら、その楽器商は信用おけないと思いましょう。

(4)私自身が感じていること
今までのは一般論でしたが、私の狭い経験での「感じ」を書いておきます。

「弾きこみ」による影響が大きいのは、楽器の音量(≒り)に関してではないかと感じます。先に書いたような、その正しい音程のポイントでよく鳴る楽器を見ての感想です。

一方、音色は、「弾きこみ」よりも、「経年変化」や弦の交換の影響のほうが大きいように感じます。いくら弾きこんでも堅い音なので、数年間放っておいたら、音色が変わったという例はあるようです。
ただ一般な経年変化は、艶っぽい音からやや乾燥した感じの枯れた音に変わるのが普通というという感じがします。


(5) もう少し余談です
「弾きこむと良い音がするようになる」という説が生まれた背景

「楽器は弾きこむほど良く鳴り、音色も良い方向に変化する」というのは、現在残っている古い楽器に、「良い音」がする楽器が多いことからできた伝説という面もあります。

古楽器に「特有の音色で、良く鳴る」楽器が多いように感じるのは、経年変化による木質の変化や弾きこまれた影響より、歳月による選別の結果が大きいと思います。
ストラディなどの楽器は、製作された時点で良い音がしていたのだと思います。そして弾きこまれるうちに、さらに良い音に変化したので、愛蔵され、傷がついても修理をされ、現在まで大切にされ残ったのでしょう。
反対に良い音がせず、いくら弾いても鳴らず、結局、壊れたことがきっかけとなり破棄されていった膨大な数の楽器があるはずです。

長い年月の選別に耐えた楽器は、よい音のする確率が高くなるのは、当然でもあるのです。



(6) 最後に身も蓋もないことを書くこと
最後になりましたが、楽器の音が大きく変わる要因がもう一つあります。
それは「弾き方」です。楽器は「弾き方」一つで、全くかわってしまいます。
自分の楽器を先生に弾いてもらった時に「ああ、なんていい音がするんだ。全然違うよなあ」と思われませんでしたか。プロは、どんな楽器でも鳴らしてしまうもんだなあと思いました。
もちろん、1つ1つのフレーズの洗練された解釈、上品なビブラートなども違うのですが、出てくる「音」そのものが違うと感じます。

一生懸命、楽器をガーガー弾きこんで、弦を換え、エンドピンまで交換して、「鳴らないなあ、この楽器は」なんてぼやいていましたが、「鳴らない」のではなく「鳴らせない」だったんですね。
思い出したので、なんとなく書いてみました。

弾きこみにより音が変わるというのは、変わって欲しいというこちら側の思い込みの上に成立している「信仰」のような部分もあるのかもしれません。

















ろろろろん

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